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『黄金の刺繍糸』 シーラ・ゲフェン/作 マーヤ・シュレイファー/絵(Maya Shleifer)

ヘブライ語翻訳者の樋口範子さんから、シーラ・ゲフェン作、マーヤ・シュレイファー絵の絵本、『黄金の刺繍糸』の紹介が届きました!以下に掲載させていただきます。

絵本の中の1シーン

絵本の中の1シーン(マーヤ・シュレイファーさん提供)

 現実とファンタジーが交差する、シーラ・ゲッフェン独特の、美しい絵本の世界。 ページごとに替わる絵の色と構成が、とても魅力的で、文章は、おばあちゃんへの愛情があふれ、主人公のマヤの気持ちがよくわかり、糸と刺繍という題材が美しく表現されている。

 幼稚園帰りのマヤは、森を抜けて祖母の家に寄るのを、楽しみにしている。祖母は耳も遠く、目もかすんでいるが、いつもひざの上に広げた布に、刺繍をしている。 原案も図案もないのに、布の上ではいつのまにか森の動物たちが生き生きと走りまわり、植物が美しく咲き乱れる。祖母の素晴らしい手仕事の腕に、マヤはとても惹かれる。自分は、なかなかいい絵が描けなくて、失敗ばかりしているのに、おばあちゃんには、なぜこんな妙技ができるんだろう?

 シーラ・ゲッフェンの前作絵本「涙の湖」にも、祖母が登場する。高齢者特有の身体の不自由や人生の辛苦を抱える祖母は、両作品中ほとんど語らないが、主人公とはいつも心が通い合い、幼い心情を支えてくれる。 刺繍針に糸が通せずに席を外した祖母の代わりに、針を握って刺繍をするマヤは、時間を忘れるほどに夢中になる。そして、ふと気づいて朝になったところで、マヤは幻想の森に導かれ、眠入って祖母の夢をみる。マヤが眠っている間に、刺繍針は繭玉に守られ、刺繍糸は黄金の蝶に変身して空を飛び、マヤを幼稚園まで道案内したところで、物語が終わる。読者はここで、主人公がいくらか登園しづらい心情であったのを推して知る。

 幼い子どものもつ不安や不満が、ファンタジックな他者の力を借りて旅をすることで、希望に導かれる結末は、シーラ自身の幼いころの願いだったのかもしれない。